エウロパの海、より。

「エウロパの海」の更新報告とか、活動報告とか、思考メモとか。

2018年、今年の10冊

というわけで今年の10冊をどうぞ。

10という数字にするために泣く泣く外した本もあるんですけど、今年読んだ本の中から、とりあえず選んだこの10冊で今年を振り返ります。

小説→漫画→実用書(?)の順にお送りします。

 

『さよなら、愛しい人』レイモンド・チャンドラー(ハヤカワ・ミステリ文庫)
定期的に訪れるチャンドラーブーム。ひたすらにかっこいい。とにかくかっこいい。ちんぴらにどつかれ、警官に殴られ、女に騙され、それでもかっこいいのだから、何だろうな。『さよなら、愛しい人』は、私立探偵フィリップ・マーロウのシリーズのなかでも一番好きです。好き過ぎて、原題「Farewell, My Lovely」は、自分の同人誌のタイトルに一部拝借したりもしました(今年出した「Farewell,My Last Sea」です)。

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火星年代記レイ・ブラッドベリ (ハヤカワ文庫SF)
火星という「別の世界」を通して描かれる、「人間は、ほんとうに、この人間としての生き方しかないのか」という問いかけの物語。火星を舞台に、火星人と人間、人間と人間といった関係の中で描き出される、知性や哲学や信仰の在り方に、気が付けば、今の人間が手にしているものとは別の生き方、別の在り方を探している。最後の場面がほんとうに美しくてたまらない。
ことあるごとに言っているような気もするけれど、過去から遠い未来へと繋がってこそSFは美しいのだと思う。

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コンビニ人間村田沙耶香(文春文庫)
何かに秀でているわけでもなく、かといって何か害があるわけでもなく、ただ異質であるということが、どれほどまでに人を孤独にするかという、客観的に見ればそういう話なのだけれども、「そうは言っても私としてはこれが一番しっくりくるので」とカラっとわが道を行く感じが心地よい。こういう物語が、本屋で平積みにされているというのは、何と言うか、賞の効果だとしても気分がいいものだったりした。

正直、こんなラストになるとは思わず、何やかんやと「普通の」ハッピーエンドになるんじゃないかと斜めに構えていたのだけれど、とても爽快なラストだった。個人の感想です。

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『風呂桶・和解・チビの魂』徳田秋声
金沢の徳田秋声記念館で買った本で、一般書店にはないもよう。戦時中の風景をこんな風に描いた作家はあまり知らず、新鮮な印象だった。何ていうか、戦争文学というものに最初に触れたのは国語の教科書で、大抵は「お父さんが出征して死んでしまい、食べるものもなく貧しくて、爆弾が降ってきて」という決まった風景ばかりが描かれ、「ひもじい、悲しい、怖い」という感情を押しつけるばかりで、その先がないイメージがあった。昨年くらいに「戦争は女の顔をしていない」を読んで衝撃を受けたのは、その感情の複雑さと多様さで、日本の戦争文学にはないものだと思った記憶がある。けれども秋声の小説を読んでいると、どうもそういうもんでもないんだな、と思えてきて、とてもよかった。出征や空襲といった戦時特有の出来事の中に、複雑でいびつな感情を持ってこの時代を生きた人々が描かれている。秋声は、色々なことがないまぜになった感情を、はっとするほど鮮やかに描き出すのがほんとにすごい。


司馬遼太郎全講演(1) 』司馬遼太郎
そろそろ読むものが減ってきたので講演に手を出してみたのでした。

司馬遼太郎は講演ひとつ、エッセイひとつを開いても、その深い思考に驚かされる。以前に司馬遼太郎記念館に行った時、展示された蔵書に圧倒されて半日くらい茫然としていた記憶があるのだけれど、本当に、どれだけの本を読み、どれだけのことを考えれば、こんな文章が書けるのだろうと思ってしまう。こういう人は、ただ歩き、風景を眺めるだけでも、色々な物語が生まれてくるのだと思う。たとえば知らなければただの山も、その昔に誰かと誰かの合戦があり、その戦にはこういうエピソードがあり、その結果歴史はこういう風に流れ、という風に物語が広がっていく。同じものを見ても、見えるものの量が全然違う。ということをぼんやりと考えながら読んでいた。

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少女終末旅行』1~6巻(完結)
アニメが終わってから出会ったので、めちゃ乗り遅れた感。
お風呂に入りながら泣く場面で私も泣いた。
美しいお話でした。好き。

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人工知能時代を<善く生きる>技術』 堀内進之介(集英社新書)

 これは個人的にめちゃ面白かった。端的に言うと「人工知能だって、使っているのは人間」という一言に尽きる。空気を読むかのように至れり尽くせりの人工知能があるとして(まあまあありますね)、でもそれ、サービスを提供してるのは人間だし、その人間にはその人間の目的があるんだよなあ、という。ターミネーターみたいな未来は来ない。現実の人工知能は、目に見える形では支配してくれない、のかもしれない。そんなお話。

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『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か』平田オリザ
表現とは、他者を必要とする。
という一文が、あまりにも当たり前で、新鮮すぎて、衝撃だった。
異論はあるだろうし、むしろ同人をやっている人たちの間では異論が多い気がする。自分のためとか、自分が楽しければいいのに他人の目を気にするなんて、とか、そういう話はときどき目にする。それはそれで同意する感情はあるのだけれども、だからこそ、はっきりとこう言いきってくれたことが新鮮だった。
演劇を中心に「伝える」ということを論じた本なのだけれど、小説にもあてはまることばかりなので、また読み返したい一冊。結構テクニカルなことも書いてある。

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『食糧と人類 ―飢餓を克服した大増産の文明史』ルース・ドフリース
唐突に思った「私は歴史を知らなすぎでは?」「しかしどっから手をつければ?」からの、「人類の歴史なんて、どうやって飯を食うかだろ」という発想から数冊選んだうちの一冊。なんか、食糧の歴史というよりも「窒素固定!!!」という感じの本で、視点がめちゃ新鮮で面白かった。農業は窒素なんだな...。こういう風に歴史を見たことはなかった。物質がどう循環するか(させるか)っていう視点は、どういう物語でも土台にあるものだよなあ、とか。

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『人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか 』中川毅(ブルーバックス)
氷河期とはなにか、今のこの温暖な時代はいつまで続くのか、から始まり、地球史をひもとく壮大な物語。農耕がだいたい一万年前から始まったことは学校で習うけれど、なぜ一万年前までは始まらなかったのかは教わらないし、実は農業の本質のようなものはそこに潜んでいるのかもしれない。発想の転換、新しい視点を与えてくれる本と出会うことは、ほんとうに奇跡的だと思う。

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実用書も小説もわりとまんべんなく読んだなーという感じ。

あと、ここにあえて載せてませんが、文ストの映画に2回も行ったうえにノベライズもコミカライズも買ったし特典小説の15歳もとてもよかったです。特典小説のもういっこについてはコメントしない(そのうち別枠で何か言う)。

それではまた。来年も、良い本に出会いたい。