エウロパの海、より。

「エウロパの海」の更新報告とか、活動報告とか、思考メモとか。

中島敦展を見てきました(感想)

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神奈川近代文学館で開催中の、中島敦展に行ってきました。

開催の情報が出たときからカレンダーに印をつけて楽しみにしていたのですが、いかんせん遠方なので、何か用事と抱き合わせで、と思っていたところに、ちょうど仕事で関東に行くことになって、これはチャンスでは……と。

ということで、以下感じたことなどのメモ。失礼ながら、出てくるお名前はすべて敬称略で書いています。

 

展示自体は期待通りというか、見たいものが見られたな、という感じで満足です。中島敦の作品のひとつひとつを丁寧に取り上げ、背景やそのときの状況、関連する資料などが展示されていて面白かった。こんなに膨大な数の資料を一度に見られる機会はもうないな...と思いました。


ところで、見終わったあとに図録を買ったのですが、その冒頭に、今回の展示の編集を担当した作家・池澤夏樹の文章があり、その最後の部分がとても印象深かったので引用させていただきます。

『彼が奉職した横浜高等女学校は当館から一キロあまりのところにあった。彼は外国人墓地を散策しただろう。彼が南洋に向けて船出した港は眼の下にある。そこまで含めて今回の展示と思っていただきたい。』

大変申し訳ない話、小さい頃から「文学館て何を見るところなんだろう」って思っていたところがありました。今でもよくわからずに足を運んでいます。美術館や博物館は分かる。「本物」を見に行くところ。本で見る名画と本物の名画は全然違うし、剥製も化石も鉱石も、本物が目の前にあるということの感動が凄くある。で、じゃあ文学の本物は、っていったら、それは本屋で買えるものでは、と首を傾げてしまう。書かれた本それ自体が本物であって、それを読むこと以上に何があるんだろうか、と。作家の身に着けていたものやら使っていた道具やらを見ることが、文学を理解することとどう関係あるのかが、いまいちしっくりこないまま今に至っています。

中島敦は本当に本当に好きな作家ということもあって、そういうゆかりのものひとつひとつにテンション上がったりしていたので、「そういうもんでは」と言われたら「まあ、せやな」って思ってしまいそうなんですが、そこでふと図録を開いて飛び込んできたのが上記の文章でした。

展示見終わってからぶらぶらと、港の見える丘公園を歩いて駅まで戻ったんですけど、その文章の影響か、「かめれおん日記」の中の文章がいくつもいくつも浮かんできて、中島敦がいた横浜にいるんだな……というふしぎな感慨がありました。

作家が生きた場所に文学館があるということの意味は、そういうことなんだな、というのを、初めて感じたような気がします。いや、今まで、誰それが逗留した旅館だとか言われてもあんまりテンション上がらなかったんですけど……何が違うんだろうな……結局は思い入れか……。

 

ちなみに、文ストのコミックスを持っていくと入館料が割引になるんですけど、出張の荷物に忘れずに入れておいた私グッジョブだし、ちゃんとワークシートやって敦君のクリアファイルも貰いました。ありがとうございました。

土曜日なのに空いていてゆっくり見られたんですけど、賑わってほしい気持ちもあるのでみんな……見てくれ……ついでに横浜お散歩しよう……。