エウロパの海、より。

「エウロパの海」の更新報告とか、活動報告とか、思考メモとか。

今年の10冊 2017ver.

恒例となってきました今年の読書を振り返るアレ。

昨年とは違って、今年は随分色々な新しい本との出会いがありました。そして再読を含めるとそれなりに長いリストになって、「あれ、こんなに読んでたのか」と思ったりしております。

その中から、印象に残っているものを10冊、TLを賑わせたりするような本は少ないですが、こんな本もあるのかくらいの感じでどうぞー。

 

『ものがたりの余白』ミヒャエル・エンデ

“このように書くんだ。一世紀の後、パレルモの広場で、メルヒェンの語部が話せるようなものを”

「あなたのファンタジーはどこから?」と聞かれれば、エンデかもしれません。
思えば『ロードス島戦記』や『指輪物語』よりもずっと前に、
はてしない物語』や『モモ』と出会っていました。

はてしない物語』は、新書サイズも出ていますが、
ハードカバーは赤い布張りに竜のようなものが描かれたデザインで、
それは物語の中で主人公の少年が手にするものと同じです。

本書は、物語をどのような形で届けるかということや、著者の手を離れた物語がどんな旅をするのかということを、考えるきっかけになった本でした。

はてしない物語』について少しだけ紹介すると(するまでもなく有名なお話ですが、ちょっとだけネタバレです)、物語は少年が本を手にするところから始まります。
本の中の世界には危機が迫っており、選ばれた若者が、救世主を探しに旅に出ます。
それはとても困難な旅で、そして結局、若者は救世主を見つけることはできず、
悲嘆にくれながら、女王様のもとへと帰還します。
しかし女王様は若者に言います。
ちゃんと連れてきてくれたじゃないですか、 
ずっとあなたと一緒に旅をしてきたではありませんか、と。
(それがつまりは少年であり、同時に読者でもある、というお話です)

少年が物語の中に招かれてからの後半部では、
物語というものが持つ力、すさまじさのようなものを目の当たりにすることができます。映画版とは結末が違うんだっけ。覚えてないけど。 

なんかこう、そういう、旅ができる物語っていいもんだなあ、と思ったのでした。

 

『みそっかす』幸田文

夏に父本棚で発掘した一冊。
幸田露伴の娘として知られる幸田文の随筆集。

途中、露伴に毎日百人一首を教わることになり、嫌で逃げ出すくだりがあるのですが、
そのページが目印のように大きく折られており。
思えば、私の父は教員だったためか家でもどこか「先生」のようなところがあって、
彼なりに何か思うことがあったのかもしれないと思い、折り目はそのままにしています。
…なんか似たような記憶があるんだよなあ、などと娘は回想していたりするのでした。

 

 『戦争は女の顔をしていない』スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ

“一つは憎しみのための心、もう一つは愛情のための心ってことはありえないんだよ。
人間には心が一つしかない” 

第二次世界大戦で、前線に出た女性たちがいる。
でも彼女たちは戦後、批判や差別を受け、自らが果たした役割を隠して生きなければならなかった。
……というところから、取材はスタートしています。

でも次第に、そんな単純なものではないことが分かる。
長く隠されていた感情は軸を失い、あふれるように噴出してくる。

祖国のために望んで前線に出た人もいれば、ドイツ軍の侵攻により戦わないといけなかった人もいる。
ドイツ軍が憎くて殺したかったという声もあれば、どうしても憎みきれなかったという声もある。
家族を犠牲にしてでもパルチザンとして活動した人もいれば、パルチザンとなった家族に捨てられた人もいる。

押し流されるようにして最後まで読んだ一冊。

戦争文学、というと、どうしても国語の教科書に載っているような、
「貧しくて大変な時代だったけどみんな我慢してがんばった」
「おおぜい死んでしまって悲しかった」
みたいなそういうアレが浮かぶんですけど、
この本は、そんな風に単純なひとつの結末まで連れて行ってはくれない。

ところでこれノーベル文学賞受賞作品だそうですが、
これを読み終えたとき、「世界中で読まれるべき本というのがあるんだな」というのを、
ほんのり思ったりしたのでした。

 

『防雪林・不在地主』小林多喜二

こういう言い方が適切かどうかはともかく、この人は「北国の作家」なんだと衝撃を受けたのがこの本。
北海道の自然描写が圧巻で、頭抱えてごろんごろんした記憶が。
真っ白な景色の下にある、凍った土の匂いがする文章がとても好き。


『星投げびと』(再読)ローレン・アイズリー

"真実をいえば自然に関して「ありふれた」状況などはありえない。
昔むかし、世界には一本の花もなかったのだ。"


ペルセウスの旅人』のエピグラフはこの本から取ると決めていて、そのために読み返したのでした。
自然の姿を捉える目の美しさ。何億年という月日を一瞬で駆け抜け、遠い世界を暴き出す文章。
長いこと手元に置いていて、時々読み返す本。


 『プロローグ』円城塔

“「自分たちで選択を、登場人物なりの自由意志を持てということですかね」”

 読みやすいのに中々読み終わらないという謎の本でしたがようやく読了。いや、最後のページが物語の最後という保証はどこにもないから困る。終わってくれ。登場人物の自由意思を尊重するあまり放任主義に走るのはどうかと思うし、ほったらかしの登場人物が物語を放棄したらどうするんだとハラハラしつつ、まあ、なんだ、なんだったんだこれ。物語が物語を物語る、とかその辺りを、登場人物の発生辺りから書いてる風のなんかそういうやつです。たぶん。


『少年魔法士19』なるしまゆり

20年近い付き合いになる漫画が、このたび完結しました。長い旅でした。
この小さな命ひとつ、世界とか、自然とか、運命とか、あるいは神なんかも加えていいのかもしれないけれど、そういうよくわからない大きな存在とどう向き合っていくのか。粉々に砕けることなく、押し潰されることなく、けれどもその大きな存在と成り代わろうとするわけでもなく、諦めるでもなく、小さな命は小さな命として、どうやって存在していけばよいのかということを、ずっと問い続けていたような作品でした。最後はほんとうに美しかった。

 

『暗夜行路』志賀直哉

前篇は再読です。そして長いこと後篇の存在を知らなかったという。
前篇の中の、船上での夜の場面が好きです。
志賀直哉は、自然観というか、人間の思いどおりにならないものに対する視線が好きです。

 

『天に星 地に花』帚木蓬生

わりと最近読んでた。
江戸時代の医者の目から見た農村の人々のお話です。飢饉からの一揆、そしてその結末までを通して、農民の強さと弱さ両方を描き出した作品でした。帚木蓬生は医療もののイメージが強かったのですが、こういうのも書いてるもよう。とてもよかった。


『光をかかぐる人々』徳永直

活版印刷の歴史をひもといていく、ドキュメンタリー風の本。
活版印刷は技術それ自体が単独で入ってきて根付いたわけではなく、明治初期という激動の時代に、伝えなければならないものが沢山あったから根付いたという、なんかそんなくだりにほわほわと感動していました。
青空文庫でも読めますが、活版印刷という題材から、どうしても紙の本でほしくて取り寄せました。

 

とりあえず思いついた順に書いたので適当にまた捕捉しているかもしれません。意外とグル―バックスをあまり買わなかったな(日経サイエンスは買っていた)、とか、いつもは「資料になる」という言い訳の元にポンポン買う資料系の本が一見すると控えめで、そういえば随分図書館にも通っていたのでそういうのは漏れてるな...と今ごろ思ったり。読んだ本をもうちょっとこう、何か、どうにか管理できないのか...(来年の目標)